校庭の2本の大イチョウが青々とした葉に変わる頃、学校にも慣れ始めた初夏。

6月も中旬になると、ちょっと走っただけでじんわりと汗ばんだ。




「あれー? 海くんどこに行ったんだろー」

「こっちの方に走って来たよねー?」

「でも……B棟はちょっと行きたくないな……先生いるかもしれないし」

「うん、あたしも……」

「帰ろっか」



女の子たちの声が小さくなったのを確認すると、ちらっと廊下を覗く。

ぶつぶつと言いながらB棟から離れて行く後姿。


相変わらず女子から追いかけ回されている俺は、さすがに疲れるとこのB棟へ逃げ込む。

奇跡的にというべきか、まだこのB棟で先生に出くわしたことはない。



入学式から2か月が経ち、みんな学校に慣れ始めると、女子たちの行動はどんどん派手なものになり、連日のように追いかけ回されるようになった。

俺を追いかけ回して何になるんだ?

根掘り葉掘り俺のことを聞いて、何が楽しい?

女子って彼女がいてもそういうのは関係ないのか?

そのせいで椿はいつも腹を立てている。

正直それもちょっと面倒くさい。

だから色んなことで疲れると、このB棟に逃げ込むってわけだ。

まさか、こんなことでこのB棟が役に立つとは思わなかった。

さっきの子たちのように、さすがにこの建物の奥まで入り込んで追いかけてくる女子はいない。