今朝、新入生代表の挨拶をするのに早く登校してくるように言われていたけど、昨晩になってその挨拶文をまったく考えていなかったことに気付いた。
いつもなんでもギリギリにやるタイプだけど、入学の挨拶にそれはヤバイかなと思って今朝はさらに早く家を出た。
そして向かった図書室。
教室だと誰かいるかもしれない。
図書室ならさすがにこんな早く、しかも入学式だ、誰か居るはずはないと思っていた。
それなのに、そこにあの“ヒサ”と呼ばれる人は居た。
図書室を入って左奥、本棚と本棚に囲まれた個室のようになった場所。
そこに置かれたデスクの上に伏せたまま、その人は眠っていた。
伏せたその腕の下には、ノートと沢山の本が置かれ、勉強していたことは見て分かった。
その人を照らすように、大きい窓から眩しい陽の光が激しく打ち付けるシャワーのように差し込んでいた。
なんで入学式のこんな日に勉強して、そして寝てしまっているんだ?
それが不思議過ぎて、生徒会長と話すその人のことは印象に残っていた。
だけど――――。
この時はまだ、まさかこの“ヒサ”という人が、優也兄ちゃんの愛する人だとは知らなかったんだ――――。