「汚い……」



椿のその言葉と同時に思えた……。

その時、小さく息をしていた仔猫がクタリと力を無くすのが見えた。




真っすぐ俺の方を見つめるヒサ先輩の頬を、一筋の涙が流れたような気がした。





それは涙なのか、この雨なのか――――。






そして、ヒサ先輩は抱えた仔猫にそっとキスをした。





「……」





『また会おうね』


ヒサ先輩の口元がそう動いたように見えた。







俺はゴクッと唾を飲み込んだ。



初めて感じた胸の苦しさだった。




冷たい雨が体を打ち付ける――――。





ぐっと下がった気温に凍えそうになりながら、仔猫を抱えるヒサ先輩の小さな手は真っ赤になり、猫たちを守ろうとする強い強いヒサ先輩の凛とした表情は崩れることはなかった。




小さな命が失われた瞬間の、ヒサ先輩の一筋の涙、それは心の奥から溢れる……美しい涙だった。