おばあちゃんが、私を忘れた……。

お兄ちゃんや、お父さんのことを忘れてしまったのだから、いつか私のことも忘れられてしまうとわかっていたはずなのに。涙は、止まらなかった。

心のどこかでこう思っていたのかもしれない。おばあちゃんは、物忘れが激しくなっても、徘徊をしても、私のことだけは忘れないって勝手に思ってた……。

あんなに「葵ちゃん」と言ってくれた人は今、私のことを怖い顔で睨んでいる。最初から、嘘だったかのように……。



その次の日、私はいつもより早く起きて、朝ご飯も食べずに家を出る。

おばあちゃんと、どう接すればいいかわからない。気を抜けば泣いてしまいそうで、グッと唇を噛んだ。

「あれ?葵ちゃん?」

急に声をかけられ、私はびくりと肩を震わせる。振り向くと結衣が立っていた。

「葵ちゃん、いつもより随分早いね。何かあったの?」

優しい目を向けてくれる結衣は、カウンセラーの素質があると思う。この胸にある悲しみが一気にあふれてしまいそうだった。