おばあちゃんは、これからどこへ行くのかわかっているのか、大人しく窓の外を流れていく景色を見つめている。

「そういえば、葵や翠が小さい時におばあちゃんはよくお前たちを海に連れて行ってくれたんだ」

運転しているお父さんが言う。お兄ちゃんが、「少しだけ覚えているよ」と笑った。

そんなこと、あったんだ……。私は隣に座っているおばあちゃんを見つめる。その目はとても穏やかだ。

「懐かしいわね〜。家にいない時は海に行けば必ずいたわ」

助手席に座るお母さんも、懐かしそうに目を細める。私は思い出そうとするけど、海におばあちゃんと行ったことは思い出せなかった。花火大会に行ったことや、縁側でスイカを食べたことは思い出せたのに……。

車は高速道路を進み、途中で休憩をはさみながらもお昼には町につくことができた。私たちの住んでいる街にはない潮風が、海の香りを届けていく。

「うわぁ〜、あのお店まだあるんだ」

車から降りると、お兄ちゃんは辺りを見回してはしゃぐ。私はおばあちゃんに言った。

「おばあちゃん、ここはおばあちゃんが前に住んでいたところよ」