「……っ、ごほっげほっ」


顔が赤いのは、むせかえってしまったからで、決して”オレのカノジョ”という煌びやかな響きに動揺したわけじゃない。


「か、彼女じゃないから!げほっ」


「あーあー、大丈夫?」


呆れっぽい声と背中をさする手が、優しくて。


どれもこれも、朝比奈くんの罰ゲームのための策略なのに、どこまでも心臓が鳴る。



そして朝比奈くんは色っぽい伏し目で問うんだ。


「……彼女になってよ?」


そんな甘ったるい声で、聞かれて。


「付き合ったら、なんでもしてあげるよ」



……まるで誘拐犯の手口だ。


経験値足らずの私を誘惑しないで。



「……だめ」


「付き合って始まる恋だってあると思うよ」


「ぜったい駄目」


「……手ごわいなぁ」


ふっと笑った朝比奈くんは、すっと立ち上がって


「じゃあまた明日。”頑張ってね”。おじゃましましたー」



名残惜しさが見つからない「バイバイ」の声を残して、

バタンと部屋の扉が閉まった。



「ばいばい……」


名残惜しさ全開の私の声は、物寂しくここに消える。


「はぁ……」


静かになった部屋で、いじわるな声が反芻されてきた。



”頑張ってね”って……。


どういう意味だろう。