朝比奈くんは、
「やっと最後の生徒も帰った。……これでふたりきり」
……いとも簡単に私の体温を上げる。
騙されるもんですか。
「なに言ってるの……」
か細い私の声を消し去るように、ぶわっと吹き込んだ六月の風にカーテンが膨らんだ。
頬を冷ますにはちょっとぬるすぎるけど。
「宮岡さんはこのあと暇?」
「う……ううん、用事がある」
「えー残念だなー……。もっと一緒にいたかったのに」
きっと心なんかこもっていないブーイングに、
愚かな心臓が反応して。
「……、それは残念でしたね」
……我ながら可愛げのないことを棒読みで返しちゃうんだ。
緊張をごまかすように黒板消しをせわしなく動かす私を楽しんでいるのか、
琥珀色の瞳が意地悪く私を射る。
「……で、宮岡さんの放課後は今日もだれかのパシリですか?」
口元に薄く浮かんだ笑みは、私をさげすんでいるんだろうか。



