秋斗の言葉を無視し、あたしは読書に夢中になる。今、主人公がついに想いを伝えるシーンだ。これは読むしかない。絶対に見逃せない。

「秋奈」

本がヒョイと取り上げられる。秋斗の手に読みかけの本はあった。

「返してよ!今いいところなんだから!」

「俺のこと無視したくせに?」

怒った口調で言われ、あたしは言葉に詰まる。確かに秋斗の言う通りだ。秋斗の言葉を無視して、何時間も読書に没頭している。

何も言えないあたしに、秋斗は本をテーブルの上に置いて近づいてきた。

「俺、また忙しくなって秋奈といる時間が少なくなるだろうからもっと触れていたいんだけど……」

「無視してごめんなさい。でもあたし、読書が好きで止められなくて……」

そう言ったあたしの景色が一瞬にして変わる。気がつけば、目の前に秋斗の顔。秋斗にソファに押し倒されていた。

「本もいいけど、俺のことも見て?本ばっかり読まないでよ」

秋斗の顔が近づく。そして、首すじにチクッと痛みが走った。赤い花がたぶん咲いている。