柔らかい手が俺の頬に触れて愛しい声で名前を呼ばれ……その瞳に映る。
うっすら視界がぼやけて駅構内のアナウンスが耳に入ってきた。
そうか……電車待ってたんだよな。
「何で泣いてるの…?」
「え…?」
言われて気付いた。
濡れた頬を細い指が拭ってくれる。
離れなきゃって思ったら自然と涙が出てた。
奈那の前で泣くとか格好悪いのに、
何で止まらないんだよ……
繋いだ手を引かれホームの端に連れて行かれた。
電車がホームに到着し乗り降りする人が行き交う夕刻。
誰にも気付かれないよう配慮してくれたんだろうな。
「もう一本ずらすから大丈夫だよ」ってハンカチで拭ってくれる。
「何かごめんね?疲れちゃったよね、慣れないことするから…」
違う………そうじゃない。
俺が……自分に負けただけ。
疑似じゃ嫌だって心が張り裂けそうで……
目の前の奈那を一瞬でも、壊したくなった。
そんな自分が今………許せないんだよ。
「ううん、疲れてなんかない……」
「そ?良かった……」
格好悪いから慌てて涙を拭った。
「目にゴミが入っただけ」とバレバレの嘘でも変わらない笑顔を向けてくれる。
良かった……まだ魔法解けてない。
電車を乗り継ぎ地元に帰って来た。
ここからはさすがになぁ………
まだそんなに遅くないし知り合いに会う確率は高い。
「家の前まで……」
心を読まれたか、離そうとした手を奈那の方からギュッと握って言ってきた。
何も言わずに握り返した俺に嬉しそうに微笑む。
何もかもお見通しか………敵わないな。
あと少しの時間を惜しみつつ、やっぱりしんみりするのは嫌だから他愛もない話を続けた。
最高のデートにするために。
笑顔でまたいつもの2人に戻れるように。

