前髪に唇が触れる。
案の定気付いて顔を上げてくるから
「不意打ち」って悪戯っぽく笑ってやった。
いつもされてるお返し。
うん、何だか俺がしたいようにって考えたらデートって楽しいぞ?
不思議と大胆になれる。
最寄り駅に着いて電車を降りた後、自然とまた手を繋ごうとしてハッとした。
「あのさ、1つだけ確認し忘れたことがあるんだけど……もし万が一今日、俺たちの友達や知ってる人にバッタリ会ったとしたら…元の俺たちに戻った方が良いんだよね?」
恐る恐る聞いたらコートの前立て部分をギュッと摘まれて距離を詰めてきた。
不安そうに見つめる瞳が俺の心をチクリと刺す。
「やだ………今日は絶対彼氏で居て」
「奈那の友達でも…?」
「うん……」
「学校で何言われるかわかんないよ?」
「そんなのどうだっていい、ヒロはそこまで覚悟ないの?」
「ううん、そんなことない。一応聞いただけ……ごめんね?最初に確認すべきだった」
「普通にデートだってするイタイ姉弟で話通せばいいじゃん」
「だね?よし、俺は彼氏。奈那に超アタックしてやっと付き合えた奈那のことが大好きな彼氏…!でいい?」
言ってるそばから超絶恥ずかしいけど、耳まで真っ赤になりながら照れ笑いする奈那に大好きなのは本当だよって心の中で呟いた。
「じゃあ仕切り直し、ここ入ろう?」
「うん」
ん?ここって………結構なハイブランドだけど?
来慣れてないから俺だけがソワソワしてる。
高校生にこのブランドはまだ早いしバイト代どんだけ稼がなきゃダメなんだ?
気後れすることなく堂々と店内を歩いていく奈那に来たことあるのかな?と思ったけど聞けなかった。
足を止めた場所でギョッとする。
いくつかカラーを選んで俺の首元に当てる仕草。
まさか、マフラーってことは…!?

