触りたい、縛りたい、愛したい  〜例え許されない恋だとしても〜




翌日、本当に何事もなかったかのようにケロッとしていた。




「おはよう」とテーブルに座った途端、いつも通りミルク入りのコーヒーを手渡してくれる奈那。




「ん……ありがと」




「ヒロ、イチゴと柚子どっちにする?」




瓶に入ったジャムのことを言ってるんだろう。
しばし無言で考え込んだあと、
「柚子」と答えたら変わらぬ優しい笑顔で「考え過ぎ」と笑われた。
いちいち心臓持っていかれる身にもなれよ。




再婚同士だけど、親父と二人きりだった頃とはまるで違う。
本当の母親は俺が生まれてすぐに亡くなったと聞かされてる。
中学まで男手ひとつの父子家庭で育ってきたから寂しさなんて慣れてるはずだったのに。




涼子さんが母親になってくれて、
奈那が姉になった日。
今までとは比べようもないくらい
俺の人生に華が添えられたというか、
どう表現するのが正解かはよくわからないけど。
言い方悪いけど、やっぱり家に女性が居るのは良い。




「お、かに座2位じゃん」




朝食を食べながらテレビの星座占いを欠かさず見るのが俺と奈那の日課だ。
奈那は7月3日生まれのかに座。
「やった〜」と言う嬉しそうな顔を見るとこっちまで幸せな気分になる。




「あれ?やぎ座なかったよ?1位かな?最下位かな?」




「やったー!俺、1位!」




書いてることなんかどうでも良くて、
ただ自分のことのように喜んでくれる奈那が俺にとっては常に1位なんだよ。
親父や涼子さんの分もチェックして盛り上がってる。
少し騒がしいけど心地良い朝。




俺は12月22日生まれのやぎ座。
お互いの星座占いを見届けるのも奈那が来てからだ。
それまでテレビもつけない静かな朝食だったから。
常に菓子パン頬張って会話もなかったな。




最初に誕生日聞かれてテレビつけたらちょうど星座占いしてて、その時まさかの最下位だったんだよね。
気まずい空気かと思いきや
「ラッキーパーソン、かに座の人だって!私じゃん!すご!じゃあ今日は一緒に過ごしてあげるよ」なんて一人ではしゃいでた。