「ヒロ…?調子悪いの?」




両親には聞こえないトーンで話すってことはわかってて言ってんだろ?




「は?何が?」




イライラして冷たくあたる。
不穏な空気………




「何イラついてんの?」




だよな………
得意だもんな、そうやって弄ぶの。
無言で手を解く。
ガキだって思われるんだろうけど
俺、そこまで大人じゃないから。
だから嫌味たっぷり込めて言ってやった。




「お、や、す、み!!」




バン!とドアを閉める。
こんなことは初めてかも。
いつだってハイハイと言うこと聞いてた。
文句は言っても今みたいに盾突くことはなかったもんな。
そりゃ惚れてたから?
惚れたもん負け……なんだろ?




いちいちドキドキして、一人で空回って。
でもそれが心地良くて、奈那の笑顔ひとつで何もかもチャラになってた。
隠さなきゃならない想いはわかっていたから……心の中で静かに浸ってたのに。




奈那にとっては何事でもなくて……
さすがにそれはないだろって。
空回りすんのも結構しんどい。
何かを期待しちゃうのはそんなにダメなことなのか?
触れたら……奈那の体温感じたら……
もうなかったフリは無理だよ………




少し経ってからまたドアがノックされた。
向こうから奈那の声がする。




「ヒロ…?おにぎり握ったんだけど食べない?お腹すいてるでしょ?」




昔からそうだった。
大した喧嘩なんてしなかったけど
悪い空気なら奈那の方から仲直りのきっかけみたいなの作ってくる。
半日ですら喧嘩させてくれなかったよな。
ヒロ……ヒロ……って。




「ヒロ…?寝てる…?」




ドアの方を見ながら「いらない」と言った。
少しでいいからさ、ほっといてくれよ。
その声ひとつで一瞬にして……頭の中独占しないでくれ。