「卒業生、起立…!」




とうとう、この日が来てしまった。




送り出す側なんてどうってことないと思っていたのに。
送り出すのが奈那だってだけでこんなに胸が締め付けられるなんてな。
遠くから見つめる小さな後ろ姿。




泣いてるの…?
この手で抱きしめに行きたい。
昨日の夜…泣かないって腕の中で言ってたのにもう約束破っちゃった…?




“泣くとしたら、きっとそれはヒロを想って…だよ”




そう言ってキスしてくれた。
じゃあ今は…俺を想ってくれてるの…?
だったら尚更、その涙を拭いに行ってやりたい。




奈那、泣くな。
新しい門出、応援してるから。
俺だって奈那のために何が出来るか、
何をするべきかちゃんと見極めるから。
支えていけるように。
見合う男になれるように。




「卒業証書授与、特進クラス、3年A組起立…!」




奈那のクラスだ。
1人ずつ呼ばれ、壇上に上がる。




「13番、末永奈那」




「はい」




「N医療大学看護学科へ入学」




卒業生はほぼ進学なので進学先を担任から発表される。
ほとんど附属大に行くけど他の大学の名前があがると少しどよめく。
特に知らない在校生からだけど。




N大なんて超エリートだもんな。
あの狭き門を現役で一発合格したんだからやっぱり凄い。
皆、きっとこう思ってる。
これぞ、才色兼備だ!ってな。




体育館に響く仰げば尊し。
すすり泣く卒業生たち。




式が終わればもう奈那には近付けないほど人が集まっている。
我が我が…と写真を求めて群がる。
遠くでそれを見つめてた俺と両親に気付いた奈那は輪をくぐり抜けてこっちに来た。




「えっ、奈那先輩のご両親!?めっちゃお母さん綺麗!美男美女夫婦!」とか言われてますけど美男…ではないな。
美女と野獣の間違いでしょう。
確かに、涼子さんは奈那と似てるからめちゃくちゃ綺麗だ。




「家族で撮ろう」と奈那が言う。
友達に撮ってもらった家族写真。
花束抱え、どさくさに紛れて俺の腕を組むからドキドキした。