「で、親にいつカミングアウトするの?」とチカさんが小声で奈那に言ってきた。
「え?いや、あの…」と明らかに挙動不審な俺たちを見て楽しそうにイジってくる。




そう、ここに居るメンバーは全員、俺たちの仲を知っていてまだ2人だけの秘密にしていることもちゃんと理解してくれているんだ。
有り難いって言っちゃ有り難い。
温かく見守ってくれてるから。




たくさんの寿司折を抱えて戻ってきた両親。
「たくさんあるから遠慮しないでね〜」と笑顔で並べてく。
「手伝う」と奈那も行っちゃった。




“いつまでも隠し通せるとは思ってないよ”と言ってた奈那の言葉。
俺もたまにふと思う。
隠してるの辛いなって。
でも言ってしまえば今まで通りで居れるとも思えなくて……正直二の足を踏む。




「祐翔、お前わさびたくさんいるだろ?」




「あ、うん」




紙皿にてんこ盛りされたわさびを自然と渡してくる親父。
涼子さんと話してる時の顔は優しくて、息子から見ても惚れてるんだろうなってわかる。




好きな人と一緒になることがどれだけ幸せなのかを身近で教えてもらってるから俺も嘘つきたくないって思うんだ。




「いや〜でも受かったら離れちゃうねぇ?嬉しいけど寂しいな」とマキさんがしみじみ言う。




そう、離れるからまだ言うべきじゃないのかも…とも思う。
“お互い自立したら…”と言ってた奈那の意見も尊重しなきゃだし。
でもそれって先延ばしにしてるだけで問題から目を逸してるだけなんじゃないかって苛む。




「どうした?ヒロ?」




「え?」




「あ、わさび?つけ過ぎたんじゃない?難しい顔しちゃって〜」




嗚呼、そうか。
いつも奈那はこんなふうに顔に出しちゃう俺のフォローをすかさずやってくれる。
泣きそうになってるマキさんへのフォローも忘れちゃいないけど。
って、どんだけ周り見れてんだよ。




「ん〜つけ過ぎた…」




眉間を掴みながら言ったら皆に笑われた。
親父たちも笑ってる。
この空間を壊したくない。
今はその時じゃないのかも。
だけどいずれは言わないといけなくて……
その時が来れば、この笑顔を曇らせてしまうのだろうか。