沈黙の歌姫


そのとき、右腕は少し痛いほどに強く掴まれ、苦しいほど強く抱きしめられた。


やっぱり安心する彼の胸。






『悪ぃ。俺の事、信じてくれねぇか?頼む。』






いつもはぶっきらぼうに話す彼が、真剣な声で言う。



彼を信じたい。そう思った。




深く考える間もなく、私は小さく頷いていた。



彼を巻き込まないと思い直したばかりだったのに、もう彼を頼ろうとしている自分の意志の弱さに笑えてくる。







恐れていながら、本当はずっと待っていたのかもしれない。彼のような存在を。






気付けばまた涙がこぼれる




『泣き虫』


口ではそうぶっきらぼうにいいながら、優しく涙を拭ってくれる。


“ありがとう”そんな思いを込めて不器用に笑いかけると、また抱き締められた。