沈黙の歌姫


そろそろ帰るか。父も酔いつぶれて眠った頃だろう。


っっ!!?


ふと振り返ると公園の入口には秋園の制服を着た男がいた。




黒髪に青いピアス。がたいのいい体。180センチ以上ありそうな身長に、整った顔立ち。



近寄り難い、威厳のあるオーラをまとったその男は、こっちに向かって歩いてくる。


ヤバい…聴かれてた…?
どうしよう…。




『こんな時間に外いたら風邪ひくぞ。名前は?』
ぶっきらぼうな言い方で彼が尋ねる。


「…。」


『ミヤザワ ユウカ?』
ベンチに置いてあったスクールバッグの刺繍をみて彼が聞く。


「……。」

ヤバい…。頷かないと…。怒らせちゃう……。
でもやっぱり身体は動かない。





『俺は2-Cの西辺海音。』


私の反応がないことにもお構い無しで、そう言った彼は私に握手を求める。

なかなか握手しない私の手を彼は勝手に握ってきた。



私の手を包み込む大きくて温かい手。人の温もりなんて久しぶりに感じた気がする。

なんだか安心している自分がいた。