沈黙の歌姫


ガチャッ…


家のドアを開ける。今日に限って父はもう帰宅していた。



『遅かったなあ』


おかえり代わりのその言葉と同時に拳が飛んでくる。


バキッ…。



何発殴られたか分からないが、父はリビングへと戻り、またお酒を飲み始めていた。




全身が痛む。


私はバックも置かずに家を飛び出した。




ねえお母さん?もう少しってどのくらい?

大切な人なんて現れるの!?





すれ違う人からの好奇の視線。そのせいで涙なんか出ない。