イケメンの恋愛観察日記


加瀨の運転は快適だった。加瀨の女子力の高い車の車内は居心地がいい。今日は普段は行かない遠方のショッピングモールに出かける。

私は浮かれていた。浮かれついでに車中で『愛の狩人』の観察日記をしたためていた。

「動いている車の中で書き物なんて酔うんじゃないか?」

と加瀨に心配されたが萌えと興奮でまったく問題なくショッピングモールに着いた。

萌えは車酔いさえも凌駕する…。

「食料品以外に何か買い物とか無いの?」

駐車場から出て、通路を歩きながら加瀨にそう聞かれたが、急に振られても思いつかない。

「今日は特にないからいいよ~。加瀨は?」

「俺もねえな~、じゃあ直にスーパーに行くか?」

私達は張り切ってスーパーが入っている区画へ出かけた。…が。

「うわっアレ可愛い!」

「……。」

私は駐車場を出て屋内に入りすぐ横にあった靴屋で足を止めた。許してくれっ…!この可愛い靴達が私を魅了するのだぁ…。Newと書かれたポップが掲げられている陳列棚に突撃した。

「あぁ〜迷うぅ〜。加瀨~右の靴と左の靴どっちが良い?」

加瀨は迷うことなく

「左の紺色。」

と言った。即決だった。

「迷わないね。」

「お前の中身はピンクやオレンジっぽいけど、見た目はクール系だしな。」

ブルベとかイエベとかいうアレのことか?

「彼氏さんはよく見ていらっしゃるんですね〜。」

んなっ?!そう店員さんに声をかけられて、違います!と叫ぼうとした言葉は加瀨の

「はい、可愛い彼女の事は24時間見詰めていますから。」

と言うスイートミラクル口撃によって撃沈された。

私は口をパクパクさせるしかない状態だ。

店員さんや周りでたまたま靴を見ていた女子達が一斉に悲鳴を上げ、私に嫉妬しているのか、ものすごい目を向けてくる。

いやいやいやー!これ練習だと思うよっ!本番の嘉川への愛の囁きはもっとねっちょりして濃厚な台詞として取って置いていると思うからぁぁ…!

ああ…びっくりした。

「脅かすな!」

「何がだよ?」

結局、加瀨の選んでくれた紺色のパンプスを買って支払いを済ませ、靴の入った袋を受け取ろうとすると、加瀨が横から取り上げて持ってくれた。

「ほら、行くぞ。」

…おいっ…何故右手を差し出す?それ知ってるぞ!王子様がお姫様にしている『エスコート』ってヤツだな!私だってだなーちょいとお嬢様な時もあってだなーダンスも貴明兄と踊ったこともあるんだぞー当然っエスコートもされたこもあるんだぞーどうだ、恐れ入ったかっ!

「変顔の練習、もういいか?」

「変顔の練習じゃないよ、もうっ〜分かったよ。これは予行練習だよね?本番(嘉川)をスマートにこなすための訓練だよね。」

私は加瀨の右手に左手を重ねた。

そしてスーパーのある区画に行くまでに、雑貨屋で加瀨が使う食器類を買い、そして紅茶葉の専門店で茶葉を買い…ドラッグストアでトイレットペーパーとコスメ類を買い、全部加瀨に持ってもらったままスーパーに入った。

「至れり尽くせりありがとうございます、加瀨様。」

「大好きな彼女さんの為だしね♪」

彼女さんのフレーズを嘉川に心の中で置き変えて練習しているのだ、言われている私はこっぱずかしいけど萌えの為だ、耐えてあげよう。

そして買い込んだ荷物をショッピングカートの下段に置いて…上段に置いたカゴの中にキャベツを一玉入れた。メモ紙を見ながら、売り場を練り歩く。

「そろそろお鍋のシーズンだけど、豆乳鍋は食べる?」

「おおっいいな~。鍋の味はどれも好きだ。」

「そっか…じゃあ鍋用に白菜とキノコ買おうかな。」

そう言ってキノコを選んでいると…加瀨がポツンと呟いた。

「なんかこういうの良いよな…新婚カップルみたいで。」

「え?」

何か加瀨が言ったのだが良く聞き取れなかったので、加瀨の方を見るとどこか遠くを見ている。その目線の先を見てみると…。スーパーの若い男性店員が居て、箱から出したレタスの陳列をしていた。

加瀨の顔を斜め横から覗き込むと耳を赤くしていて、うっとりしている顔をしている。

あああ!よく見ればあの若い店員さん、割とがっちりしていて鼻筋の通った、涼し気な感じが…

嘉川に似てる。嘉川に似てるっ!

何それ何それぇ?! こんなスーパーの野菜売り場でも嘉川の残像を求めて恋焦がれているの?!萌えるぅぅ~滾るぅ~~尊いわぅ‼私は鞄の中をまさぐった。

「相笠…。」

「何?」

「お前野菜売り場で何でその日記書いてるんだよ?」

「ちょっとした萌えの消化よ。」

加瀨は渋い顔をした。

「早く仕舞え。ハァハァ言いながら何か書いてるの傍から見たらただの変態だから。」

「……はい。」

それはいけない。尊き者達を観察する愛の巡礼者のつもりが、通報されるようなことではいけない。私は粛々と『愛の狩人』を鞄に仕舞った。


××月××日(日)

今日から本格的に加瀨と嘉川の悲恋劇場を間近で観察出来るとあって興奮が冷めやらない。スーパーで会った嘉川似の男性店員に熱い目を向ける、加瀨のなんと色っぽいことか…。

同居早々萌えをありがとう!尊い生き物よ…明日も恵みの糧(悲恋)を与えてくれたまえ。

明日のお弁当のおかず、何にしようかな~加瀨の分のおかずのイメージは『嘉川への愛の弁当』とかにしちゃおうかな。