「ノックくらいはしなさいよ!レディーの部屋なんだし!」

「レディー?お前が?」

ニヤニヤする千夏にプイッと顔を背け、怒っているフリをする。すると、「ごめんって!」と謝ってきた。こんな嘘に騙されるなんて、まだまだだね。

「アイス食うか?買ってきてやったぞ」

「アイス!」

千夏がテーブルの上にアイスを出す。この島で売られている種類の少ないアイス。都会で売られているようなおしゃれなアイスは一つもない。あたしはレモン味を、千夏はバニラを黙々と食べる。

「……なあ、最近はどうなんだ?楽しいか?」

千夏が顔を上げ、アイスを食べるあたしに声をかける。その声はどこか緊張していた。

「こっちに帰ってきてもう一年くらいだろ?おいしい魚があって、穏やかな人たちが多くて、東京より静かで……。まだこの島が嫌か?」

前のあたしなら、「こんな島、嫌い!!」って即答してたんだろうな。でも、今はゆっくりと首を横に振る。