お兄ちゃんへ

「お怪我ありませんか?」



お兄ちゃんが声をかけた瞬間、その女性はふらついた。

とっさにその体を支えたせいで、お兄ちゃんが持っていた傘が地面に落ちる。



「すみません…すみません」



動揺しているのか、申し訳なさそうに何度も謝ってくる女性に、お兄ちゃんがもう一度聞く。



「大丈夫ですか?」


「はい…あの、そちらは?」


「こっちも大丈夫です」



それを聞いて、ほっとしたように泣き出す女性。

お兄ちゃんはまだ体を支えてあげてる。


雨に濡れていく二人に、私は傘を差し出すことができなかった。

なぜだか足が動かなかった。

自分でも分からない、言いようのない不安を感じていた…