にじいろの向こう側



久々にゆっくり出来る程時間のある夜。
たっぷり咲月を堪能させて頂こうかな…

気持ちの高ぶりをそのままに、メイド服の背中のジッパーに手をかけた。


コンコン


「あ、あの、どなたか…」
「…いいよ。」

ココン、コン!!


…『ココン、コン』って。


一人しか居ないだろ、そんなノックの仕方するヤツ。


『瑞稀ー!真人ですよー!一緒に寝ようぜ!』
『ま、真人様…瑞稀様は今、お仕事の最中かもしれませんのでリビングでお待ちになっては。』


圭介の慌てる声が一緒に聞こえてくる。


今まで咲月と夜、合っている間、誰ともバッティングしなかったのは、圭介の配慮によるところが大きかったって事を今、ものすごく実感した。


真人は圭介でさえ、制御不可能…な、わけだ。


戸惑ってる咲月の乱れた髪とエプロンを整えてあげて、項垂れながらトビラを開ける。ギロリと睨んだら圭介の肩が少しぴくりと揺れ、苦笑いが固まった。


いや、俺は圭介じゃなくて、真人にビビって欲しいんですけど。


「瑞稀!ごめん、邪魔した?」

……思い切り邪魔しましたけど何か?


「瑞稀!一緒に寝ようよ!」
「…嫌です。」
「えー昔は『マコが居ないと眠れない』ってベソかいてたのに…」


そんな話今すんな、バカ兄貴!


慌てて咲月の方見たら、目があってニコって微笑まれた。

これ『兄弟っていいですね!』のテンションに戻ったよね、完全に。


返せ俺のお楽しみの時間…。


内心(いや、圭介からしたら、見た目も)項垂れ落胆している俺をよそに


「…では、失礼致します。」


咲月は丁寧に俺達に頭を下げ、部屋の中のオーナメントを綺麗に片付けて去って行く。


「咲月ちゃん、お疲れ!」


俺の冷たい視線をもろともしないでヒラヒラと手を振るバカ兄貴の横で、圭介が苦笑い。


「では、こちらに二人分のお茶をお持ち致しますか?」
「うん!ありがとう!圭介…って、何か慣れないな…圭介に頼むのって」
「すぐに慣れますよ。」


丁寧におじぎをするとニコッと笑って部屋を出て行く圭介に、真人ははあと関心の溜息をもらした。


「『出来る男』って感じだよね、圭介は。」


…確かに圭介は昔から何に関してもきちんとこなそうとするタイプだったからね。影でたゆまぬ努力をしているからこそ、目に見える部分は『出来る』と見える。

それをひっくるめての話を真人はしているって聞いている俺はわかっているけれど、恐らく真人本人は、全てが『圭介』であるって捕らえているから気が付いていない。


人を見る目は、昔から真人の方が上手だった。
ただ、見る目に優れていても、言葉でそれを表現できない。全てを感覚で捉えるタイプだから。


苦手な人は、苦手。

好きな人は、好き。
凄い人は、凄い。


まあ…この単純さがこの人の魅力なんだけどね。ツリーを通り過ぎてデスクチェアに腰掛けた。


「…これからまだ仕事なの?」


真人はそんな俺を見届けてから、ソファに腰を下ろす。


「誰かさんのおかげで、デスクワーク持ち帰りです。」
「…そっか。ねえ、瑞稀?」

「何?」とパソコン画面に顔を向けたまま軽く返事したけれど、そのまま返事が返って来ない。



画面の横から少しだけ見た真人はそのデカい身体を体育座りに丸めてる。表情は捨てられた子犬みたいに少し寂しそう。

……単純が魅力だって思ったけどさ。子供の頃から変わらな過ぎだから、本当に。


俺が素っ気ないといつもこんな。
昔からそう。
一生懸命絡んで来るくせに、ダメだって思うと本能で甘える。


ふうって溜息つくと、パソコンの電源を落とす俺。そのまま、タブレットだけ持って真人の隣に腰を下ろしたら、途端にパッと表情を明るくする。


これ、どっちが兄貴か分かんないよな、本当に。


「瑞稀!やっぱ一緒に寝よう!」
「ヤダ。真人足乗っけるから。」


大体、俺はマコじゃなく、咲月をここに泊まらせたいんだよ。
マコにはとっとと自室に戻って貰って…


「あ、もしもし圭介?今日、瑞稀と一緒に寝るから!」


おい!勝手に決めて連絡すんな!


なんて慌てた俺の心中は全く伝わるわけもない。


「失礼いたします。真人様の枕とお布団をお持ちしました。」


数分後には真人の枕と布団を持って来た咲月が現れた。


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