にじいろの向こう側







真人様と二人で瑞稀様のお部屋のツリーを飾り付けすること一時間ほど。


「よし、完成!」


改めて見たクリスマスツリーの出来栄えがとても素敵に見えて気持ちが弾む。


きっと私一人ではこうは行かなかった。真人様のお陰だな…。
瑞稀様、喜んでくださるといいんだけれど。


「咲月ちゃんお疲れ様。」
「はい…真人様の手際の良さのお陰で、とても素敵になりましたね。」


不意に部屋の扉がガチャリと開いて、少し不機嫌そうな瑞稀様が顔を覗かせた。


「何やってんだよ、人の部屋で二人でさ…。」
「あっ!瑞稀、お帰り!早かったじゃん!」
「優秀な秘書がいらぬ気を回してスケジュールを開けてくれたんだよ。」



『優秀な秘書』…。


瑞稀様の言葉に途端に、明るくなっていた心の中がまた靄を帯びる。


瑞稀様から目を逸らし見た先のもみの木には痩せてるサンタと角の無いトナカイ。


イマイチだな…私。


小さく溜息ついて少し俯いたらポンと掌が乗っかった。

瑞稀様の掌…が。

途端に気持ちが高揚し、心が弾み出す。


やっぱり嬉しい、瑞稀様が触れて下さると。


「すぐに片付けを致しますので。」

「ゆっくりでいいよ。着替えもしたいし。真人はまた後で。」

「えー?!俺だけ追い出すの?ズルイ!そうだ、瑞稀、一緒に風呂入ろうぜ!」

「マコ、泳ぐからヤダ」

瑞稀様…断るポイントそこなんですね。

いつもより、どことなく幼さを醸し出す瑞稀様が可愛く思えて、思わず少し頬が緩んだ。


「瑞希!照れなくても平気だって!」
「や、照れてないよ?いい大人が二人で風呂ってさ…って絡むな!苦しいだろうが!」

真人様の長い腕にホールドされて顔をクシャクシャにしている瑞稀様は何だかすごく楽しそうに見える。

兄弟っていいな、こんな表情を引き出せるんだから。


「では、まずは、お二人のお風呂の仕度をしてまいります。」
「えっ?!ちょっと!入らないから、マコとなんて!」
「あっ!『マコとなんて』ってどう言う意味だこら!咲月ちゃんて話が分かるね!お願いしまーす。」
「勝手に決めんなバカ兄貴!」


まるで大型犬に掌握されて尚も抵抗を続ける子犬の様な何とも言えないほのぼのとしたやりとり。

仲良さげな二人に何となく智樹さんを思い出した。


毎日寒いから風邪をひいてなければいいけど。

また…会いに行来ますね。


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