「あーあー聞こえねぇ」

姫ちゃんは聞こえないふりをしている。そうだよね。なかなか受け入れらないよね。でもね、姫ちゃん。

「ほんとうに香りさんがこの部屋にいるんだよ」

姫ちゃんは膝を抱えて丸くなっている。その姿を見て香りさんがからかうように姫ちゃんのすぐそばまで近付いた。

「なあなあ、千鳥、今わたしが何処にいるか教えてやりよ」

悪い顔をした香りさんが言う。そんな事できるわけないよ。面白そうだけど。

「なあ千鳥、その香りさんってのはあれか?やっぱり白いもやみたいに見えるのか?」

「ううん、はっきりと見えるよ。二十代くらいのお姉さんだよ」

「そうか、お姉さんか、ハハハ」

姫ちゃんの声がうわずってる。ほんとうに苦手なんだ。わたしも苦手なんだけど。

「なあ千鳥、その香りさんはわたしの家に住み着くとかないよな?」

「大丈夫だよ。香りさんはわたしから離れられないんだって!」