ホームズの子孫には敵わない

私は服のポケットにそっと触れる。最初に抵抗しなかったおかげで、パリにいた時のようなボディチェックはされなかった。

スマホは襲われた場所で落としたかばんの中だから、当然手元にはない。あったとしてもモリアーティに奪われている。

でも、今の私にはーーー。

ポケットの中から取り出したものを見つめ、私はニイッと笑う。それはまるで事件を楽しむホームズさんみたいで、こんな時なのに笑いたくなる。

「もうすぐ終わる」

ポケットから出したボールペンほどのサイズのナイフとヘアピンを手に、私は覚悟を決めた。



ナイフを器用に使って結束バンドを何とか外し、ヘアピンを鍵穴に差し込んでドアを開ける。ちなみに、拘束を解く方法やピッキングはホームズさんとワトソン先生から教えてもらい、何度も練習した。

「まさか、こんなにうまくいくとは思ってなかったな……」

練習した甲斐があったと思いながら、恐る恐る廊下に出る。当然、見たことない景色が広がっていた。