「夏休みに教えてやれたらいいんだけど、貴子とふたりでスイスに行くからな。ああ、そうだ」

 と言って、叔父はデスクが並んでいるほうを向いて「沢渡君、いる?」と声をかけた。

「はい?」一番遠い、窓際のデスクにすわっていた靭也が立ちあがる。

 ソファーのある場所は衝立で仕切られていたので、夏瑛は靭也がいることにまったく気づいていなかった。

「あのさ、例の公募展に出品する作品を描くから、うちのアトリエ貸してほしいって、言ってたよね。ぼくたちの旅行のあいだ」

「はい。大学のアトリエはこの夏休み、耐震工事で使えないので」

「じゃ、悪いんだけど、夏瑛にデッサンの手ほどきしてやってくれないかな。きみの制作の邪魔にならない程度でいいんだけど」

「いいですよ。おれでよければ」靭也はそう言うと、夏瑛のほうを向いた。

「美大、受けたいの?」

 夏瑛はしばらく展開の早さに頭が追いついていかなかった。

 ということは、夏休みに靭にいちゃんに会えるってこと? 

 しかもふたりきりで? 

 ええっ?