夜8時。
俺は突然の電話で呼び出され、ホテルのバーへとやって来た。

ここは、酔っ払った鈴木を拾った場所。
本当なら別の所にと思ったが、落ち着いていて知り合いに会わないようにと思うとここしかなかった。

「おい」
カウンターの隅に座った男が手を上げた。

「ああ、お待たせ」

約束の時間に遅れたわけではないが、すでにグラスが空きかけているのを見て言ってしまった。

「俺が早すぎたんだ」
「そうか」

ひさしぶりに見る親友は変らない優しい表情を向けてくれる。
何もかも8年前のままだ。

「久しぶりだな」
「ああ」

新しく差し出されたグラスを傾けながら、フーッと息を吐いた男。
俺の幼なじみ。
元々母親同士が知り合いで、小学校の頃からいつも一緒にいた。中学も高校も一緒だった。
親父の勧めで経済学部に進んだ俺と、医者だった親父さんの希望で医学部を選んだこいつ。
大学に入るときになって初めて違う人生を選択した。
それでも、お互いの彼女も含めて仲良くしていた。
こいつは一生の親友であり、誰よりも俺を知る男だ。

「髙田鷹文かあ」

ククク。
おかしそうに笑われた。

「悪いかよ」
「別に・・・」

何が言いたいのか、想像はつく。
でもな、これが今の俺なんだ。