「これ買うのか?」
「うん、このシリーズが好きで全部持ってるの」
「俺こっちを買うから、後で交換しようぜ」
「いいわねえ。私読むの早いからすぐに回すね」

ビジネス書って結構値が張るから、貸してもらえると助かる。
ここが本屋さんなのも忘れてすっかり職場の気分で話し始めた私達。
私はこの時、白川さんの存在を忘れていた、

「お前、1人?」
「ううん。連れがいて・・」

なんて説明しようかと思ったとき、

「一華ちゃん」
前方から歩いてくる白川さんと目が合った。

マズイ。と思ってもどうすることもできず、私は固まった。

「どうしたの?知り合い?」
高田の後ろ姿と私を交互に見て、説明を求めてくる。

「うん。会社の同期。偶然ここで会って」
「そう」

そこまで聞いてから、高田が体の向きを変えた。

「会社の同期で高田鷹文と言いま、す」
にこやかに振り向いた高田。

「白川潤です」
なぜか、白川さんの表情は硬い。

「えっと、白川さんは」

なんて説明すればいいんだろうか?

「僕は一華さんのお見合い相手です」

白川さんが自分で言ってしまった。
まあ、嘘ではないし、仕方ない。本当は高田に知られたくなかったんだけれど。

「じゃあ、一華さん行こうか?」
「はい。髙田、またね」
「ああ」

軽く手を振って、私と白川さんは本屋を後にした。


車に乗り込み家に向かう途中、白川さんは元気がなかった。

「彼が、物思いの原因?」
真っ直ぐに前を見ながらボソッと聞かれ、

「そうかもしれません」
正直に答えた。

家に帰ったら父さんにはっきりお見合いのお断りをお願いするつもりだし、今さら嘘をついても意味がない気がした。

「そうか」
そう言ったきり白川さんは黙ってしまった。


それでも家の前まできちんと送り届けてくれた白川さんに、
「今日はありがとうございました」
きちんと頭を下げ、最後になるかもしれないデートは終わった。