「今日は楽しかったです。ありがとうございました」
「どういたしまして」
送ってもらう車の中でお礼を言った。

「そうだ、もう一カ所寄り道してもいい?」
「へ?」
「この通りにある本屋に行きたいんだ」
「ああ、蔦の木書店?」
「そう」

蔦の木書店は都内に十数店舗を持つ大型書店。
でも、この先にある店は医学書やビジネス書に特化した品揃えで、私も何度か来たことがある店。
他の店にないようなマニアックな本があったりして、見ているだけでも楽しい。

「私も久しぶりに行きたいです」


郊外型の大型駐車場併設の店舗だけに車はすぐに止めることができた。

「すごい人ですね」
「そうだね。日曜日だからなあ」

店内は学生やビジネスマン風の人で混雑していた。

「僕は医学書が見たいから2階へ行くけれど」
「私はビジネス書を見たいのでこの辺にいます」
「じゃあ、何かあったら連絡して」
「はい」

私達は観覧車の中で連絡先の交換をした。
これから先何かあれば直接知らせようと約束をして。

ブラブラと本を見て歩きながら、新人の頃を思い出した。
元々不器用な私は何をやってもうまくいかず、結果の出せない自分に悩んでいた。
人間そんなときには何かに頼りたくなるもので、よくここに来て色んな人が書いたビジネス書を買いあさっていたっけ。
そんなことをしても頭でっかちになるだけで、いいことなんてないのに。

あっ。
私が好きだったシリーズの新刊が出てる。

棚に手を伸ばした私は横から出てきた手とぶつかった。

「ああ、すみません」
「いえ」

・・・ん?

「「あっ」」
声が重なった。

「何でいるの?」
「お前こそ?」

そこにいたのは高田鷹文だった。

「何してるの?」
「何してるって、ここは本屋だぞ。本を見に来たんだ」

そりゃあそうだろうけれど。

「たまに来るんだよ。この店って品揃えが豊富だから」
「確かに」
「鈴木は?」
「私もこの店が好きで、今日はフラッと立ち寄ったの」

まさかデートの帰りだとは言うわけにもいかず、なんとか誤魔化そうとしてみた。

「フーン」
どうやら疑っている様子はない。