高田が車を運転するというのを必死でとめ、帰ってきたマンション。

玄関で帰そうとする高田を無視して、私は部屋に上がり込んだ。

「もういいから帰れよ」
「今日、泊ってもいい?」
「帰れ」
「大丈夫、私ソファーでいいから」

「はああ?」
一向にかみ合わない会話。

でも、私も譲る気はない。

「とりあえず、今日は会社には帰らないことにするから。あとは・・・明日からの予定を立てなくちゃね」
「おまえなあ」

「仕方ないでしょう、高田は1週間内勤になるんだから。その間の外回りは私と小熊くんでフォローするわよ。その代わり、伝表や事務処理は全部お願いね。まずは、夕飯の買い物をしてくるから。何か食べたいものある?」
「いや」
「じゃあ、行ってくるわ」

確かマンションの側に小さなスーパーがあったのを思い出し財布を手に立ち上がった。
私が作れるものなんてたかがしれているけれど、少しでも食べて元気になってもらわないと。

「なあ?」
不意に後ろから声がかかった。

「ん?」
「お前、家には『友達の家に泊る』って言うつもり?」
「それは・・・」

「夕食は一緒に食べるから、泊らずに帰ってくれ」

「迷惑だった?」

私は心配で、高田を1人にはできないのに。

「俺は大丈夫だから」
「でも・・・」

泣きそうな顔を見られないように顔を背けた私を、後ろからギュッと高田が抱きしめた。

「いい子だから、言うことを聞いてくれ」

「高田?」

くるりと向きを変えられ、目の前に高田の顔があった。