自分の予定していた仕事の動かせる部分はすべて動かし、高田の代わりに数件の事務処理もし、午前中のうちに2件の取引先回りに同伴した。

「チーフ、助かりました。午後からは1人で行けると思いますので、チーフは自分の仕事をしてください」
「うん」

確かに、重要なところは午前中に回ったから、午後は定期の訪問のみ。
これなら小熊くん1人でも行けるだろう。

「今日はありがとうございました。お礼にお昼をおごります」
「えーいいよ、悪いし。それに一件回りたいところもあるから」
「いいんですか?近くにうまい定食屋があるんですけれど」
「本当にいいの。気にしないで」

それに、私も一応上司だし、ご馳走になるのは気が引ける。

「俺、いっつも高田課長にご馳走になってるんで、たまには俺が払いますよ。今日は本当にお世話になりましたし」

なんだか、小熊くんが大人に見える。
でも

「高田って、そんなにおごってくれるの?」
「ええ。ただ、大抵は外回りのだめ出しをされて落ち込んでる俺に『ほら、おごってやるから次行くぞ』って伝票持って出て行くんですけれどね」

高田らしいな。

「課長に言わせると、餌付けだそうです」
「餌付け?」
「はい。言ってもわからない俺は食べ物で釣るしかないって言ってました」
「ふーん」

私も近いものがあるかも。よくおごられている。

「じゃあ、俺はこのまま取引先を回りますけれど?」
「私も一件回ってから戻るわ」
「そうですか。じゃあ」

「うん、小熊くん頑張ってよ」
私は右手を上げて小熊くんを見送った。