「そうです、会社で倒れていたのをマンションに連れて帰りました。連絡せずに申し訳ありませんでした」
と詫びた。

「2人はどんな関係ですか?」

香山さんの言いたいことはわかっている。
疑われても仕方ない状況でもある。
しかし、

「同じ部署の同僚です」
「それだけですか?」
「はい」

フフ。
ちょっとだけ香山さんが笑った。

「ただの同僚を部屋に泊めますか?」
「いけませんか?」
香山さんの態度にイライラして、つい反抗的な言葉になった。

「ただの同僚のために、三和物産の件を穏便に済ませて欲しいと一華が孝太郎に頼み込んだと?」
「それは・・・」
言葉に詰まった。

やっぱりそうだったのか。

「卑怯なやり方ですね」
「・・・」

そんなこと言われなくてもわかっている。
知っていれば、俺だって全力で止めた。

「孝太郎はまだ一週間ほどはアメリカ出張から帰って来ません。帰ってきてから話をするでしょうから僕からは何も言いません。社長もあなたと話をしたがっていたので、言い訳でも考えておいてください。僕からは、」

一旦言葉をとめ、香山さんは立ち上がった。

「仕事に私情を持ち込むな。とことん受け止める気がないのなら、一華に入り込む隙を与えるんじゃない」
叱りつけるような言葉が、頭の上から振ってきた。

多少理不尽ではあるが、言われることはもっともで、黙ってしまった。

「あなたが一華の素性を知ってしまった以上、ただの同僚に徹するのか、前に進むのか、選択は2つに1つです。よく考えてください。」

そんなの決まっている。俺の前に未来なんてあってはいけないんだから。

ちょうどその時、社長室からの内線がなり、香山さんは社長室へ入っていった。