トントン。
「高田です」

「はい」
声がして秘書室の戸が開けられた。

「どうぞ、入ってください」

6畳ほどの広さがある社長秘書室。
奧には社長室に続く扉もある。

「座ってください」
「はい」

この人が社長の腹心と言われる男、香山徹。
31歳の若さで会社を陰から動かす男。

「社長は今大阪出張から帰ってきたところで常務とお話中です。
待っている間に、私と少し話しませんか?」
「はあ」

ここまで来て断れるはずもなく、俺はソファーに腰を下ろした。

「昨日、一華を泊めました?」

えっ?
突然のことに言葉が出なかった。

「昨日は一華と一緒にいたんですか?」
再度聞かれ、
「なぜ私に?」
質問には答えずに聞き返した。

「孝太郎から聞きました」
「専務から・・・」
「孝太郎とは幼なじみです。当然、一華のことは小さい頃から見てきました」
「はあ」

「高田さん」
言葉を止めて、ジッと俺の顔を見た香山さん。

「一華と一緒だったんですよね」
小さな嘘も見逃さない強い眼差しだ。

はぁー。
俺は1つ息を吐いた。