「ところで、社長秘書の香山がお前を呼んでいたぞ」

はあぁ。

「何かあるのか?」
「いえ」

鈴木が社長の娘で、昨日は俺の部屋に泊ったから呼ばれたんだなんて言えるわけがない。

「鈴木とは大学時代の知り合いらしいからな、変なゴタゴタに巻き込まれないでくれよ」
どうやら、部長は誤解をしているらしい。

「大丈夫です。きっと三和物産の件です」
「ああ、あれか」

ある程度大きな損失を出しておいて、何もなく終わるはずがないのに。
俺は事情説明すら求められず、報告書の提出で終わった。
上からの力が働いたのは誰の目にも明らかだ。

「鈴木が頼んで香山が止めたのか?」
「わかりません」

きっと専務辺りが止めたんだろうと俺は思っているが、部長には言えない。

「どちらにしても行ってきます」

逃げたってどうしようもない。

「あいつは若いけれどできる男だ。気をつけろよ」
「大丈夫です」

まずは相手の出方を見るしかない。