朝には熱も下がり、いつもの私に戻っていた。

「俺、朝一でアポがあるから行くけれど、大丈夫?」
「うん。もう平気。家に帰って寝ます」
「そうしてくれ。約束している取引先は、俺と小熊でなんとかしておくからゆっくり休め」
「うん」

さすが高田はぬかりない。

「台所に食いもんもあるから、食べれそうなら食べてくれ」
「ありがとう」

さっきまでTシャツと短パン姿だったのに、スーツを着た瞬間できる男に見えてくる。
これが私の知っている高田鷹文だ。

「ねえ、高田?」
「ん?」
「もう、怒ってないの?」

どうしても気になって口にしてしまった。

「ああ、元気になればそれでいい」
優しい笑顔。

いや、そうじゃなくて・・・
「違うの。昨日の事じゃなくて・・三和物産の件」
「ああ」
そのことかと、少し表情が暗くなった。

あれ以来、私は高田に避けられていたから。

「お前は何もしていないんだろう?」
意地悪い顔。

「俺の知らないコネを使って上層部に手を回したりしてないんだろう?」

う、うう。
全部バレてる。

「ごめんなさい」
「鈴木らしくないな」
「・・・ごめん」
だんだんと声が小さくなっていく。

「過ぎたことはもう言わない。ただ覚えておいてくれ。俺はコソコソするのは嫌いだ。そんな事までして守ってもらってもうれしくない。2度とするな」
「ごめんなさい」
「今日はごめんなさいの大安売りだな」
クククと笑って、高田は出て行った。


1人残された私。
広いリビング、高そうな家具。
立地から言っても、かなりの高額物件のはず。
高田は何者なんだろう。
気にならないと言えば嘘になるけれど、秘密を持つ身としては追求することもできない。

しわになったスカートを必死に伸ばし、冷蔵庫のゼリーをいただき、私は自宅に向かった。