ほんの一瞬、私は夢を見た。

それは6年前、入社式で初めて高田に出会ったとき。
普段から会社に出入こそなかったけれど、重役達の中には見知った顔もある。
社長の娘ってバレないように、私は後ろのすみで隠れるように座った。

ピカピカのスーツに身を包んだかわいらしい男の子。
新入社員らしく、紺や黒のスーツを着て綺麗にメイクした女の子達。
みんな笑顔で笑っていた。
そんな中に、1人。無表情な男子。
私の2つ向こうの席に座り、真っ直ぐに前を見ている。

もしかしてモデルかなって位目立つ顔立ち。
仕立ての良さそうなスーツ。
めがねの奥でキラッと光る強い眼光。
思わず引き込まれた。
誰だろう?ここにいるからには新入社員だよね?

その時、
「鈴木さん、高田くん」
30歳くらいの男性に声を掛けられた。

「「はい」」
私と共に声を上げたのは2つ向こうに座っていた男子。

呼んだのは当時の営業課長だった。
その日の新入社員の予定は、朝から2時間ほどの式典、その後は各部署に別れてのオリエンテーリング。課長は私達を迎えに来てくれていた。

「今日から君達の上司になります、森です」
「「よろしくお願いします」」
ペコンと頭を下げた。

「今年営業に入ってきたのは君達2人だけだ。鈴木さんは女の子だけれど総合職での採用だから、高田くんと同じ仕事をしてもらうことになる。覚悟はできている?」
優しそうな顔で聞かれ、
「はい、もちろんです」
はっきりと答えた。

「じゃあ、まず2人で自己紹介して」
「「えっ」」
なぜか固まってしまった。

「ほら、早く」
ニコニコと笑顔の課長。

私は仕方なく、
「鈴木一華です。よろしくお願いします」
右手を差し出した。
「高田鷹文です。よろしく」
彼も右手を差し出し、2人で握手をした。