入社して6年。

高田はいつも側にいて、それが当たり前だった。
でも今、高田から距離を置かれるようになり初めて気づいた。
私は高田に頼っていて、ずっと助けられてきたんだという事に。

「一華さん、まだ課長と喧嘩してるんですか?」
「喧嘩じゃないよ。嫌われたの。私が勝手な事をしたから」
「それって三和物産の件ですよね」
「うん」
「じゃあ、私のせい?」
「違うよ」

可憐ちゃんのせいじゃない。
私が高田の気持ちを傷つけたから。

「額が大きかったから、もっと問題になってもおかしくないのに、自然消滅したからおかしいなあって思ったんですよ」

可憐ちゃんは可憐ちゃんなりに、心配してくれていたんだ。

「香山さんにお願いしたんですか?」
「え?」

可憐ちゃんは社長秘書の香山さんが私の知り合いだと思ってるから、彼に頼んだと思ったんだ。

「違うよ。私は何もしてない」
「本当ですか?何か上層部の力が働いたって、もっぱらの噂ですけれど」

なるほどねえ。噂って怖いわ。

「大体さあ、大学の先輩ってだけで、そこまでしてくれると思う?」
「だから、一華さんと香山さんが付き合っているんだろうかって」
「はあぁ、ないから。それに、私にそんな力があるなら、まずは部長を飛ばしてもらうわよ」
「ああ、確かに」
普段から私と部長のバトルを見ている可憐ちゃんは、納得したように笑ってみせた。

「でも、一華さんに彼ができたんじゃないかって本気で思っていました」
「なんで?」
「最近綺麗になったし。・・・ん?.」
ジーッと顔を寄せてくる可憐ちゃん。

「何?」
「顔、赤くありませんか?」
はあ?

「熱、あります?」
「ないない」

少し頭が痛いとは思うけれど、いつもの事だし。

「本当ですか?」
と言いながら額に手を当てられた。

うわ。冷たい手。

「熱いです」
「嘘」
全く自覚はなかったけれど。

「医務室行きます?」
「いいよ。今日は忙しいから」

この後、午前と午後で2件づつ取引先回りが待っている。
今日は休めない。

「誰にも言わないでね」
「はい」

私はそのまま外回りに向かった。