一通りの話が終わると、泣きはらした顔の可憐ちゃんと川上さんが会議室を出て行った。

「小熊、三和物産の見積もりを作り直してくれ。単価は三和商事に合わせていい」
「いいんですか?」

確かに、それでは利益が出ないはず。

「そのかわり、ロットを増やしてくれ」
「はい」

そうか、三和商事は古くからの取引先って事で単価が抑えられていただけではない。
一度の入荷数が多いから、薄利でも利益が出るようになっていたんだ。
もし同じ単価を望むなら、入荷数も増やせって交渉する気なのね。さすが。

「明日にでも俺が直接行くから、アポをとっておいてくれ」
「はい」
小熊くんも少し安心した表情で出て行った。



「さあ、後はお前だな」
「・・・すみません」
何を言われても、それ以外の言葉が出てこない。

「鈴木はいつになったら成長するのかなあ」
「・・・ごめんなさい」
「このまま隠し通せば、なかった事にできると思った?」
「・・・」
「それが本当に、萩本さんのためになるとでも?」
「・・・ごめん」

「ダメな物はダメだとはっきり言えよ」
「はい」

確かにそうだね。

きっと今、可憐ちゃんは川上さんにすごく怒られているんだと思う。
あの時私が正直に話していれば、小さなミスで終わったのに。

「お前の優しさは長所だと思うけれど、それじゃあ人は育たないぞ」
「・・・」
「後はこっちでする。部長にも俺が話すから」
「でも・・・」

悪いのは私なのに、このまま逃出すのは卑怯だ。

「ただし、しっかり反省してくれ」
高田はいつも冷静で、感情的になる事の少ない人だけれど、最近は叱られてばかりだ。

「なあ鈴木」
「はい」

「頼むから、これ以上何もしないでくれ」

溜息交じりに言われた一言がどんな意味を持つのか、私にもわかっている。
高田は自分の責任にして事を終わらせようとしている。

でもね、私だってプライドはあるしバカでもない。
今回のケース、いくらロットを増やしても損出は出る。
原因が人的ミスによるものならば、責任問題にだってなる。

それがわかっていて逃出すなんて、私にはできない。