それから10日後、事件が起きた。

「鈴木、ちょっと来て」
高田に呼ばれ、会議室に入った。

すでに小熊くんが座っていた。

「どうしたの?何かあった?」
張り詰めたような空気に、不安がよぎる。

「お前、三和物産の担当に何か言ったの?」
「ええ?」
それはどういう意味?

キョトンと見つめ返した。

「今日、三和物産に商談に行ったんです。今まで通りの金額で話をして見積もりをって話になったところで、単価を下げろって言い出したんです」
「えええ?」
「僕も最初は、新人だから足元を見られてるんだと突っぱねました。でも、こんな物を出してきたんですよ」

そう言って机に投げ出された紙。
それは、先日誤郵送してしまった見積もり書のコピー。

ああー、マズイ。

「三和商事は鈴木の担当だから、この見積もりはお前が作ったんだよな?」
「ああ、うん」
後は自分で話せというように、高田は黙った。

はあー、困った。
黙っているわけにはいかない。
でも・・・。

「チーフッ」
小熊くんが声を上げた。

「わかった、話すから」
私は姿勢を正し、2人を見た。

「実は10日ほど前に、見積書を謝って郵送してしまったの。三和商事宛ての物を三和物産に」
「それで?」
高田の声が冷たい。

「去年まで私が担当だったから相手の担当者もわかるし、直接連絡を取ってすぐに回収させてもらったんだけれど・・・」
「すでにコピーをとられていた」
「うん。ごめん」

完全に私のミスだ。
開封されていた時点で、こんな展開は予測しておくべきだった。

「お前が自分で発送したのか?」
「う、うん」
高田の目が見れなくて、視線を外した。

ピピピ。
電話を掛ける音。

「ああ、営業の高田です。萩本さんと川上さんに会議室まで来てもらってください」

ええ?
川上さんは事務の責任者。勤務年数も長いお局様で、可憐ちゃんの指導係でもある人。

すごく、マズイ展開だよね。

「高田課長・・・」

なんとか穏便に済ませられないのって目で訴えてみたけれど
「ダメだ」
声にならない声で、唇だけが動いた。