夏が過ぎ、少し冷たい風が吹くようになった。
入社2年目の可憐ちゃんと小熊くんは、ちょっとずつ社会人らしくなってきた。

あの小熊くんが感情的な事を言わなくなり、まずは相手の話を聞いて一拍おいてからものを言うようになった。
こうしてみると高田は本当にすごい。一体どんな魔法を使ったんだろう。

「ねえ、一華さん」
可憐ちゃんがコソコソと話しかける。

「何?」
「あの・・・」
そう言ったきり言葉が止った。

「どうしたの?」
「実は・・・」
よほど言いにくい事のようだ。

でもこのままではらちがあかない。

「どうしたの?可憐ちゃんらしくないでしょう」
いつもはっきりとものを言ってくれる可憐ちゃんが今日はおかしい。

「・・・三和物産って、小熊の担当ですよね?」
「うん。5年ほど前からの新しい取引先。当初から私が担当していたけれど、今は小熊くんに引き継いだの。それがどうかした?」
「実は・・・昨日一華さんに頼まれた三和商事あての見積もりを、三和物産に送ってしまって・・・」
「えええ?」

それは・・・まずいわね。

「あれってうちからの仕入れ価格も全部書いてあるんだったわよねえ」
「ええ」

三和商事は古くからつきあいのある取引先、仕入れ値だって三和物産に比べたらかなり低く設定している。