母さんが用意したお見合い用のワンピース。
きっと高かったはずなのに・・・

「せっかくのワンピースがもったいないな」
こんな沈んだ気持ちで申し訳ない。

ブブブ。ブブブ。
さっきから携帯の着信が止らない。

母さん、兄さん。時々父さんも。
みんなが心配してくれる。

あれ?雨。
どうしよう。

一瞬迷って近くのビルに走り込んだ。

白川さんは不思議な人だった。
つかみ所がなくて、時々とっても冷たい顔をする。
でも、言っている事はもっともで、自分の態度を反省させられた。
いつも小熊くんの事を子供だと叱っているくせに、私の方がよっぽど子供かもしれない。

ブブブ。
えっ。高田からの着信。

どうしたんだろう。
仕事以外で電話なんてかかったことないのに。

「もしもし」
『今どこ』
「え、赤坂だけど」
『プリンスホテルのラウンジで待ってろ』
は?

「私、何かした?」
休みの日に呼び出される覚えはないんだけれど。

「いいから」
「何で?」
率直な疑問。

「いいからつきあえ。この間介抱してやったのを忘れたのか?」
「いや、それは・・・」

この間ってどっちだろう?
きっと接待のことよね。

何も言い返すことができず、私は歩き出した。
行く当てもなく、このまま帰る気にもならず、結局ホテルに向かった。