「大丈夫か?」
「うん」
「吐きたくなったら早めに言ってくれ」
「うん」

初めて乗った高田の車。
助手席のシートを倒してもらい、じっと目を閉じていた。

「お前、実家だよな?」
「うん」
「どうする?少し酔いを覚ますか?」

「酔いを覚ましたい」
「俺んちでいい?」
「うん」
このまま帰れば兄さんが大騒ぎしそうだし、まともに歩けるくらいまでは酔いを冷ましたい。

15分ほど走って車はマンションの駐車場へ。

「行くぞ」
うん。

着いたのは最上階。
「ここ何階?」
「45階かな?」
うわ、高そう。

「ここ高田の家?」
「ああ、とは言っても親父の名義だけどな」
へー。

「水と薬を持ってくるから、ソファーに横になってろ」
「うん、ありがとう」

余計な物がなくてすっきりとした、まるでモデルルームみたいな部屋。
高田らしいな。

「ほら、これ飲んで少し寝ろ」

「今、何時?」
「9時」
「じゃあ、1時間だけ寝させてもらう」
「ああ、好きにしろ」

きっと言いたい事もあるんだろうけれど、高田は何も言わない。
こんな醜態をさらした私に呆れているんだろうか?
6年も営業をやってきて接待1つ満足にできないなんて・・・

ウトウトとまどろみながら、涙が流れた。
これは悔し涙。
ふがいない自分が、情けない。