かなりお酒の入った小熊くんを連れて、近くのバーに入った。

「小熊くん、大丈夫?」
「ええ。見た目よりしっかりしています」

確かに、酩酊した感じはない。

「高田課長は心配して言ってるんだからね」
「わかっています」

それならいいけれど。

「一華さんもこんな事あったんですか?」

珍しい、小熊くんが名前で呼ぶなんて。
まあ、今はプライベートな時間って事かな。

「あったわよ。取引先に2度と来るなって商品投げつけられた事もあるし、部長に怒鳴られる事なんてしょっちゅうだった」
「へー、課長もですか?」
「うん、一緒。みんなそうやって来たんだから」

小熊くんには想像もできないだろうけれど、高田にだって新人時代はあった。
私ほどではないけれど、失敗もしてきているんだから。

「そうなんですか」
小熊くんは何かを考え込んでいる様子。

「私も高田も、部長や先輩方にいっぱい助けてもらったの。代わりに頭を下げさせた事も1度や2度じゃない。そうやって成長するのよ」

「俺には・・・無理だな」
そう言って、グラスを空ける。


「そんな事無い。自分のために頭を下げさせるなんて申し訳ないって思えるうちは大丈夫。真っ当だって事。今日の事も、自分が悪いってわかっているんでしょ?」
「ええ、まあ」
「じゃあ、謝っちゃいなさいよ。その上で、この先の事を考えよう。私も高田も一緒に頭を下げるから。ね?」

「何でそこまでするんですか?」
不思議そうに私を見る。

「それはね、小熊くんがかわいいから」
「えっ」
小熊くんは耳まで真っ赤になった。

「ほら、帰るよ。家まで送ってあげるから」
「それ、反対じゃないですか?」
「いいから、行くよ」

12時を回り電車もなくなった中、私はタクシーで小熊くんを送る事にした。