「こんばんわ」

不機嫌そうに現れた悠里。

「ああ、久しぶり」
「そうね」
「何飲む?」
「炭酸水を下さい」
カウンターに座って注文する悠里。

「飲まないの?」
「うん、最近調子が良くなくて」

「季節の変わり目だからな、喘息の発作が出ても不思議ではないな」
「うん」

今でこそ丈夫な悠里だが、子供の頃はかなり体が弱くて病院との縁が切れない子だったらしい。亡くなったお母さんも喘息の持病があったと聞いているし、気をつけた方が良いだろう。

「ちゃんと薬を飲んでいるのか?」
「うぅん」

「飲んでないだろう?」
「・・・」

「お前なあ」
「何よ、そんな用事で呼び出したの?」

違う、今日の用事はそんなことではない。

「悠里、お前一華ちゃんに何を言った?」
「えっ?」
「会ったんだろう?」
「うん」
「何で?」
「何でって・・・」

詰め寄ろうとする俺を避けるように、悠里は反対を向いた。

「これは鷹文と一華ちゃんの問題だから、何もするなって言ったよな?」
「・・・」

「悠里っ」
場所も考えず、大きな声を上げてしまった。

「何よ、一華ちゃん一華ちゃんって。そんなに好きなら潤が付き合えば良いじゃない。何も知らないくせに、潤や鷹文に守られているあの子に腹が立ったの。だから会いに行った。悪いの?」

俺は、我慢できなかった。
バンッ。
カウンターを叩いた音が店に響いた。

「もういい、帰る」
「待てよ」
話はまだ終わっていない。

「離して。二人とも一華さんの心配だけしていればいいじゃない。私なんて・・・ハアハアハア」
急に悠里の息が荒くなった。

「ゆ、悠里。大丈夫か?」
崩れ落ちる悠里を、俺が抱き上げた。