8年間、私は鷹文を探していた。
まさか名前を変えているとは思わなかったけれど、人混みに出れば無意識に彼の姿を求めていた。
でも、それは当時の鷹文が目に焼き付いていて、心配でたまらなかったから。
昨日会って、元気で立派な社会人になっていることを知れば未練なんてない。

消息を消した恋人を思い続けるのに8年は長すぎる。
その間私にだって色々な出会いがあったし、人として成長もした。
大学生だった頃の私とは違うんだから。

「結局、変わってないのは俺だけか」
「そんなこと、潤だって彼女いたじゃない」

ここしばらくはフリーだって知っているけれど、8年間何もなかったわけではないでしょう。

「今はいない」
「うん、知ってる」

じゃなきゃハロウィンの日に私を呼び出したりしないでしょうからね。

「お前、本当に結婚するの?」
「え、えらく話が飛ぶわね」

潤、酔ってるのかしら。

「どうなんだよ」

あら、絡み酒。

「するわよ。結婚して本郷商事を継ぐの」
「相手は誰でもいいと?」
「違うわ。律也さんだから結婚するのよ。優しいし、会社を任せられる人だから」
「随分打算的だな。もっと情熱的な恋をしろよ」

はあ?
今度は私が潤の顔を見つめた。

「どうしたの、潤らしくないよ。何があったの?」

グイグイッと、手にしていた水割りを一気に空ける潤。

「一華ちゃん。お見合い相手の子なんだけれど、面白い子なんだ。本当はお見合いなんて断ってしまおうと思っていたんだけれど、話しているうちに彼女に興味がわいて、今日も呼び出して会ったんだ」

「へー」
なんか、ムカつく。

「そうしたら、食事の間中鷹文の話を聞かされて、」
「そりゃあ鷹文のことが好きなんだから仕方ないでしょう」
「しまいには、嫉妬した鷹文に連れ去られてしまったわけ」

はあ。
「それは、お気の毒様」

なんだ、鷹文も幸せにやっているのね。
安心した。

「潤もその子が好きなの?」
「どうかなあ」
否定しないんだ。

「すみません、私も水割りをください」
カウンターの中に声をかけると、

「お前、飲むの?」
心配そうな顔で潤に見られた。

「飲むわよ。急に飲みたくなったんだから」

はあー。
あれだけ早く寝ようと思っていたのに、今日も遅くまで飲んでしまいそうだ。