その晩、潤から電話があったのは9時を回った頃だった。

「俺だ。今から出てこられるか?」
言葉少なに言う潤の声が緊張している。

「うん。どこ?」

場所は都内のホテル。
初めて行く店ではあるけれど、迷うことはなさそう。

「今から迎うわ」
「ああ、待っている」

すでに自宅に帰り部屋着に着替えていた私は、急いで身支度をすると家を飛び出した。
今日も父さんは遅くなるらしく、誰からも行き先を聞かれることはない。

さあ、鷹文。あなたは一体どんな人になっているのかしら。
会いたいような、怖いような、複雑な気持ち。
それだけあなたは特別な人だったんだから。

私がまともに付き合った初めての人。それが浅井鷹文だった。
高校時代から名前は知っていた。
浅井コンツェルンの御曹司で、頭もいい、見た目だって悪くない。
そうなれば同世代の女子が黙っているはずもなく、彼は有名人だった。
大学に入り、私の友人だった堀内由奈が潤の彼女だったことがきっかけで会うようになり、真面目で嘘をつかない性格と引っ張っていってくれる強さに惹かれ、私から告白した。
幸せだった。この時間が終わることはないと思っていた。
8年前の事故の日まで。