トントン。
「一華です」
「入れ」

はあー、溜息しか出ない。

「座れ」
冷たい口調で命令する声。

私の兄、鈴木孝太郎は31歳。現社長の息子で、顔も良くて仕事もできる切れ者。
キチッと決めた外見は見るからに王子様だし、身につける物一つ一つまで高級で御曹司感が半端ない。

「昨日はどこにいた?」
「・・・」
なんとも答えられない。

「連絡も無く外泊とは、いい度胸だな」
「・・・」
「仕事をやめるか?」
「はあ?」
思わず声が出た。

どこの世界に、28の妹にここまで干渉する兄がいるだろうか?
過干渉にもほどがある。

「仕事着らしくない服だな」
「悪い?」
別に迷惑掛けてないでしょと言いかけて言葉を飲み込んだ。

「昨日はどこにいた?」
「・・・」
それでも私は黙っていた。

「調べさせようか?俺は本気だぞ」
いつも以上に鋭い視線で私を見る。

酔っ払って意識をなくし、ホテルで同僚と一夜を共にした。
言えるものなら言ってみたい。
でも、無理でしょう?言えるわけがない。

「営業部長を呼ぼうか?」
すでに電話を持っている。

「ま、待って」
そんなことされたら私の素性がバレてしまう。

けれど、高田のことを話すわけにもいかず・・・困った。