ブブブ。携帯の着信。

ん?
潤からだ。

「ちょっとごめん」
律也さんに断って電話に出る。

「もしもし」
『潤だけど。あの・・・』
言いよどむ声。
何かおかしい。

「どうしたの?」

そもそもこんな時間に電話なんて珍しい。

「鷹文を、見つけた」
「え?」
今度は私が黙り込んでしまった。

浅井鷹文。
私の元彼。
8年前突然姿を消したその男を私はずっと探していた。
それが今さら・・・

『大丈夫か?』
「うん。驚いただけ」

きっと潤も驚いているはず。

「今夜会う約束をした。お前も来るか?」
「う、うん」

随分急だな。覚悟も何もあったものじゃない。

「無理しなくてもいいぞ」
「大丈夫。私も会いたい」

これは嘘じゃない。
でも・・・不安なだけ。
私が最後に見た彼は、ボロボロだったから。

「安心しろ、あいつは元気だ」
「・・・そう」
良かった。

私は少しホッとした。
悔しいけれど、電話の向こうの友人、白川潤には私の気持ちが筒抜けらしい。

「様子を見て電話する。遅くなるかもしれないが、待っていてくれ」
「わかったわ」

何の連絡もなく姿を消した恋人にやっと会える。
それはうれしさよりも古傷がうずくような、不思議な気分。
でも、会わなければ先には進めない。である以上、私は会いに行く。