「室長、急ぎの案件です。お願いします」

「はい」
自分のデスクに戻った途端、声をかけられた。

世間的に言えば今日は日曜日で企業はお休みのはずなんだけれど、繁忙期のため社員の3分の1ほどが出社している。

「先ほど社長からお電話がありました。戻られたら連絡が欲しいとのことです」
「はい」

数時間席を離れただけで、仕事は容赦なくたまっていく。

私、本郷悠里は父が社長を務める本郷商事の企画推進室長。
もちろん娘だからって事もあるけれど、入社以来6年間必死に働いて今の地位を手にしたと思っている。

「室長」
「はい」

手際よくデスク周りに置かれた書類を整理しながら、今度は何よと声のする方を振り返った。

あれ?
そこにいたのは、意外な人。
本郷商事の事業部長、田川律也さん。
30歳の若さでこの会社の将来を担うと期待される人。
そして、私の将来の旦那様でもある。

「どうしたんですか?」

上司である彼なら、私を呼び出せばすむことなのに。

「会議が長引いたから、お昼まだだったら一緒にと思ってね」

ああ。そう言えば、食べてなかった。

「でも、まだ急ぎの書類が残っていて・・」
やんわり断ろうとした私に、

「ダメだよ。また飲み物だけで終わらせる気でしょう?」

うっ、否定できない。

「ほら、いくよ」
私の返事なんて待つことなく、律也さんは歩き出した。

「ま、待って」

こうなったら後を追うしかない。