俺たちは事務室へと通された。

「これが、東棟の10階から15階までの顧客名簿です」

「ありがとうございます。データを本社のシステムルームへ送って下さい」
「はい」

テキパキとデータを送信し、怪訝そうに守口を見るマネージャー。
そりゃあそうだろう。
何の説明もなくいきなり顧客データをよこせって言われてもな。
確か、ここは浅井の系列ホテル。本社の人間って言うだけで多少の融通は利くと思うが、ここまでとは・・・

「鷹文さん、この中に心当たりの人物がいますか?」
見せられた顧客名簿に、一華の名前はなかった。

「鈴木一華さんと、鈴森商事、あと、鷹文さんに関係する人がいないか検索させていますので、」

だから、本社にデータを送ったのか。

ピコンピコン。
守口の携帯が鳴った。

「鷹文さん、どうですか?」

見せられた画面に、数人の名前と、会社名。確かに鈴森商事と取引があった会社だ。
でも、心当たりはない。

「違うな」
「そうですか」

ピコンピコン。
次々に送られてくるメール。

「これはどうでしょう?」
「ああ。えっと・・・」

画面を目で追っていた俺は1人の人物で目がとまった。

「こいつ」指さした先を守口が見る。

「海山商事の長男ですか」
「ああ」

海山商事は、セクハラ接待事件で一華がひどい目に遭わされた会社。
もちろん部長は首になったが、あんまり腹が立った俺は色々と裏で手を回した。
今はかなり経営状態が悪いと聞いているが。

「逆恨みですかね」
「そうだな」

守口のことだ、俺が何かしたのはすでに知ってるんだろう。

「行ってみますか?」
「ああ。急ごう」

相手が海山商事の人間となれば、
一華が危ない。
俺は事務室へを飛び出した。