「これからもよろしくお願いいたします」
俺は、笑顔で握手をする。

ここは都内のホテル。
今夜は親父につれられて財界のパーティーに参加した。
今晩だけで一体何人の人と挨拶をしたことだろう。

「鷹文さん、彼は浅井建設の山口社長です。叩き上げの苦労人ですので、」
「わかった」

そう言っている間に近づいてきた50歳くらいの男性。

「山口社長」
俺の方から声を掛けた。

「おや、鷹文さんですか?」
「ええ。お久しぶりです」

「私を覚えていてくださったんですか?」
「はい。10年前自社ビルの完成式典で、お目にかかりましたね」
「ええ。まだ高校生でしたか」
「はい」

正直顔は覚えていない。
でも、自社ビル建設は浅井建設が取り仕切っていたはずだし、たたき上げって言うなら当時から勤めていたに違いない。

「随分ご苦労されたようですね」
先ほどまでの値踏みする視線が、一気に同情的になった。

「ええ、まあ。ご心配ありがとうございます」
無難に受け流すと、山口社長は建築業界の話を始めた。

単純だなあと思うけれど、仕事熱心でいい人だ。
この人に任せておけば、浅井建設はつぶれることはないだろう。
まあ、その代わり急成長もない気がするが。経営者としてどっちをとるかだな。

しばらく、熱く語る山口社長の話を聞いていると、

「失礼します。鷹文さん」
守口が声を掛けた。

見ると、手には俺の携帯。
そう言えば、パーティーが始まる前に預けたんだった。

「何?」
「鈴木様からお電話で、急用とのことでしたので」

ああ、一華か。
でも急用って、なんだろう。

「すみません。ちょっと失礼します」
山口社長に断り、俺はパティー会場を抜け出した。